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今回は1巻から読んでいる「しっぽの声」の3巻を読んだ感想です。
私はこの巻が一番読んでいて辛かったです。
今まで、残酷なシーンも厳しい内容もありましたが、今回は二人の主人公、獅子神と天原どちらも辛い現実に直面しなければならない試練があり、動物保護の現場がいかに過酷かということを、まざまざと見せつけられたからです。
今回のテーマ
今回の内容は主に「人の善意の意味」がテーマになっているように思いました。
単行本の帯にもある”その「かわいい!」の裏側にある地獄”が描かれており、少しでも犬猫たちを助けようとしている人たちにもいろんな立場や考え方があるというのを実感しました。
はじめは河川敷に遺棄された野犬たちを天原が捕獲するシーンから始まります。
このシーンからすでに「野犬を保護する難しさ」を描いています。人間になついていない犬というのは「可愛い」では済まされず、危険を伴うということがよくわかります。
そして、その対岸を大型犬に引きずられるように散歩している、学生サークル「アニマリンガル」のメンバーが見えます。
このシーンは大きな川を挟んでそれぞれ考えが違う「動物を助けたい」と思う人達がいることで、考え方に大きな隔たりがあることを表していると思いました。
学生ならではの活動をする「アニマリンガル」
2巻に出てきた、白道市立大学に所属する学生が運営する動物保護サークル「アニマリンガル」。このサークルが愛護センターから犬猫を引き出すことにより、白道市では殺処分ゼロが達成されていました。
その成果により、自分たちの活動に自信を持ったメンバーたちは、天原たちが保護した白道市の隣の黄道市の野犬たちも自分たちで引き取ると申し出ます。
ですが、黄道市の動物管理センターの兵坂主査は、アニマリンガルに動物を引き渡すのを拒否します。
その理由は「保護とはただ生かすことだけではない」ということ。ただ「殺さない」という一点だけを追求した動物保護は結果として不幸な動物を生んでしまうという考えからでした。
アニマリンガルの会長、半田茜はそれを聞いて反発します。「どうしてみすみすあきらめるんですか?あなたに犬たちの命を奪う権利があるんですか?」と。
兵坂主査は、アニマリンガルがすでにキャパオーバーを迎え、これ以上動物を引き取るとパンクすることを見抜いていて、そこを指摘しますが、半田茜はこれを聞いても反論します。
2016年に台湾の動物保護センターで自殺した獣医師、簡稚澄(ジェン・ジーチョン)さんの話を例に出し、人の心を動かせば殺処分はゼロになると主張。
「私たちアニマリンガルはあなたたち大人と違うんです!」
「私たちには学生だからこその強みがあります!情熱や行動力、決してあきらめない希望が!」
若さゆえの情熱と、動物たちを助けているという自信によって突き動かされるメンバーたち。実力行使に出て、動物たちを引き出して行きました。
保護された後の犬猫と、それぞれの考え方
その後は保護された子たちがどうなっていくのかが描かれています。オリに入れられた犬たちを写真にとってSNSで拡散する「だけ」の人、保護犬を飼おうという気持ちがありつつ、そのSNSの投稿を見ながら「この記事はずっと前から拡散されっぱなし」「あー今日も里親募集見つからなかった」とスルーする女の子。
そして、その間にたれ耳猫のスコティッシュフォールドの関節炎の話が挟まれます。
2巻に出てきた猫の個人ブリーダーもそこで出てきますが、スコティッシュフォールドが先天的な骨形成異常性のために関節炎を引き起こすことを知りながら、繁殖させた過去を持っているにもかかわらず、「俺は動物が好きだから責任をもってちゃんと飼っていた」と言い放ち、安楽死させることに反対するシーンがあります。
猫が痛みを抱えたまま苦しんでいても「殺すのは悪」という立場。アニマリンガルの会長と同じく「とにかく殺すことが罪」という考え方です。
一方で動物保護センターの兵坂主査は「どんな命でもいつかは死ぬんです。それが自然の摂理ですから仕方ありません。問題はどう生きるかです。長くても短くても幸せに生まれ幸せに生きて幸せに死んでいけることが大切です。」という考え方。
天原もこちらの考え方です。これは動物福祉に基づく考え方だと思います。
この両者の考え方の違いが、冒頭の大きな川を挟んでいるシーンに表されているように交わることができないというのがわかります。
野良猫たちの過酷な生存環境
今回の巻では、犬よりも猫のほうがクローズアップされて描かれていました。
第20話迷い猫
第21話コンクリートジャングル
この2つの話で野良猫の現実を描いています。
野良猫の糞尿被害にあっている地域の人々の意見、野良猫たちを救おうとする天原たちの思い、こっそり餌をあげながら途中で投げ出す人、生きていくだけでも厳しい野良猫たちの生活環境。カラスに襲われる子猫、猫好きな人が読むのは辛いシーンが続きます。
ここでは「野良猫」というくくりになっていますが、この状況は外で飼われている猫にもあてはまりそうで、猫を飼っている人にはさらに胸に来るものがあると思います。
「自分たちは迷惑だけど殺すのはかわいそう」「餌をあげてしまったけどその後は知らない」という人間たちの身勝手さを描いており、原作者がこの問題に憤りを感じているのが表現されていました。
野良問題は犬よりも猫のほうが問題が深刻だということがよくわかります。
殺処分ゼロのその先
第22話殺処分廃止の先
殺処分ゼロを達成した白道市アニマルホープセンターのその後が描かれます。
殺処分ゼロになって以降、動物愛護団体がいなくなり、アニマリンガルのみになってしまったことで、引き出す団体が減り、保護動物が溢れてしまう。
その結果動物たちのケアが遅れ、ひどい状態で詰め込まれることになりました。
現場で働く職員の切実な言葉。
「しわ寄せは全部現場だ!」
理想を達成したはずなのに、以前よりひどくなった動物保護センターの現状。
「殺処分ゼロ」という言葉だけが先走りして、実際の現状が公表されない現場の辛さが表現されています。
実際に動物たちの世話をする人たちは行政に対して憤りを爆発させていました。
アニマリンガルのその後
野良猫たちのエピソードのあと、アニマリンガルの現状に移りますが、兵坂主査の思っていたとおり、厳しい状況になっていました。
アニマリンガルの会長、半田茜が最後にとった行動とは…。
壮絶過ぎて、読んでいて言葉に詰まる思いでした。
今回の巻では人間の善意の意味とはどういうものなのか、本当にそれは動物たちのための善意なのかというのを問うていると思いました。
「殺処分ゼロ」という言葉が先行している現在、本当に殺されないことだけが幸せなのか、善意を持って活動している人たちすべてが動物のためになる行動を出来ているのか。
それぞれがいろんな考えを持っているのは当然です。
ほんの少しでも出来ることをするのが動物保護活動であると私は思っているのですが、今回の話はどれも救いがないように見えました。
特に、途中に出てきたSNS関連の人たち。私はここがとても読んでいて辛かったです。
私も少しでも知ってもらいたいと保護犬のことをこうしてブログに書いていますが、実際にはてんすけ一頭を世話するので精一杯。ボランティアもしておらず、とても胸を張って役に立ってるとは言えない立場です。
ここに描かれているSNSで拡散する人も、投稿をスルーする人も、なにか悪いことをしているわけではありません。でも作中では「何もしない」「人の善意に期待する」ということも罪であると描かれているようで、胸に刺さりました…。
これが現実であるなら、じゃあ一体どうすればよいのか。
アニマリンガルの会長が最後に叫んだセリフは、恐ろしいけれどこうやってパンクする人は実際いるんだろうなと思いました。
作画を担当されている方も描いてて辛かったのでしょうか、途中に希音ちゃんのかわいいしぐさを入れることで、少しでも和ませようとしているように読めました。
厳しい現実を知ってもらうためには事実を描くことはもちろん大切だと思いますが、漫画として読み進めるのがとても辛かった。でも、これが現状なんですよね。
次の巻では少しは明るい未来が描かれていると良いな…と思いました。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。