こぐま犬と散歩〜元保護犬の漫画日記〜

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【漫画レビュー】動物保護の現実を描いた漫画「しっぽの声」4巻を読んだ感想(ネタバレあり)

 ご訪問ありがとうございます。

 

今回は漫画ではなく、1巻から読んでいる「しっぽの声」の4巻を読んだ感想です。

しっぽの声4巻の表紙

可愛い猫が表紙です

「しっぽの声」は、夏緑さん原作、ちくやまきよしさん作画、杉本彩さんの協力によってビッグコミックオリジナルで連載中の漫画です。

 

第24話 引き取り屋

 今回の巻は「人に利用される動物」がテーマだと感じました。

この24話に出てくる引き取り屋という業者はまさにそうで、ペットショップや保健所から不必要とされた犬猫を引取り、生かさず殺さず放置するサービス。殺しはしませんが、病気になってももちろん放置、適正な世話もしませんのでケージの中でこの世を去ってしまう。


殺されるよりひどい環境と言えます。死体のシーンは見るに耐えません…。

 

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「引取り屋」の実態

「天原アニマルシェルター」の所長、天原と「レーベン動物病院」の副院長、獅子神の二人が動物たちを救うべく、現場に行き業者と対峙します。

うまく業者を騙して動物たちを手放させようとすると、あっさりと承諾する引き取り屋。「あまり儲かりませんから」という言葉に動物に対してなんとも思っていないのが表れています。

 

そして天原に「おまえは無力だ」という言葉を投げつけ、勝ち誇ったような顔をして去っていきます。

 

動物愛護活動をされている方々はきっとこういう思いを何度もしているんだと思わせるこのシーン。それでも天原は「あんな野郎にダメージは受けていられねえ」と動物たちのために前に進むことを誓います。

 

第25話安楽死、第26話いきものがかり

「安楽死」は2巻から続いているスコティッシュフォールドの問題。遺伝病を抱えたまま繁殖させられた猫たちは触れられるだけで痛む体のまま生かされています。

 

苦しみから救うべく安楽死を考える天原たちですが、長く苦しませないようにどうすれば安らかに眠ってもらえるかを考える辛い決断を強いられます。

(ここで「安楽死」という言葉から受ける印象とは違った、辛い現実が描かれます。)

 

そこで立ち上がったのが獣医の獅子神。勘当された実家の父に頭を下げて病院の施設を使わせてほしいと頼み、「所有者の許可なく安楽死させれば器物破損罪」と叱責されます。

それで自分の甘さに気づいた獅子神は所有者である、個人繁殖業者に所有権を放棄してもらうために奔走します。

そしてやっと猫たちを引取りますが、その時並んだケージを見て厳しい表情をする院長、そして同じ角度で真剣に処置をする獅子神の横顔が次のコマに描かれ、比較になっています。

「もう苦しくないよ、ゆっくりお休み」と優しく猫の遺体に声をかける獅子神。穏やかな表情で眠る猫…。この子はなんのために生まれさせられたのかと悲しくなりました。

 

そして、第26話の「いきものがかかり」は小学校で飼育されているうさぎの多頭飼育崩壊に触れています。そういえば自分が行っていた小学校でもうさぎが次々子供を生んで、もらい手を探し回った覚えがあります。(飼育係でした)

当時は子供だったので何も考えていませんでしたが、おとなになってこういう問題もあるんだと気づきいました。

天原は増えすぎたうさぎを引取り、シェルターに子どもたちを見学に来てもらうことで子どもたちに命の大切さを知ってもらう試みを始めます。

欧米ではこういった「訪問型」が主流となっており、「飼育型」は日本特有のものだそうです。

今後、学校で動物を飼育するのは難しくなって行くのかもしれませんね。

 

第27話、第28話「保護猫詐欺」

この話はまさに「人に利用される動物」の話だと感じました。SNSで横行する保護猫詐欺。そしてその実態は想像を超えるほど闇が深かったです。

 

詐欺グループが言った「動物愛護ブームのおかげで保護動物を飼うことは今はステータス!」という言葉。

こんな考えに至る、そしてこんな詐欺を思いつく人がいるというのに正直驚きました…。でも、これが人間なんですね…。帯に書いてある「動物を見つめたら、人間が見えてくる」という言葉が重く刺さります。

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気軽にSNSで里親募集が見つかる時代ならではの犯罪

こういう詐欺をする人間にとっては、動物好きな人達は良いカモ。保護犬を引き取った私にとって、動物愛護「ブーム」という言葉は重いものでした。

第29話 殺処分ゼロの「例外」

前巻では、「殺処分ゼロ」という言葉の裏にある現場の声が描かれていましたが、今回は「殺処分ゼロの例外」つまり、殺処分対象の犬の話でした。

処分されないということは里親を見つけ、生きる道を見つける必要がありますが、そのためには人間に危害をくわえない、飼い犬として暮らすことができるようになる可能性がなければなりません。

 

ここでは、ある理由から凶暴になってしまった犬が飼い犬になることができないため、処分を免れないという悲しい話が描かれています。

気持ちの弱い人間に利用され、結局処分される犬。こういう犬を救う手立てはないのでしょうか。

第30話、第31話「里親詐欺」

第27,28話の「保護猫詐欺」と対になるような話です。譲渡する側とされる側。

これも人の善意に付け込んだ犯罪。でも金銭が絡むのではなく虐待目的で猫の里親になる人間の話でした。

 

途中の猫の虐待動画を公開して喜んでいる場面は、もう一度開くことができないほどひどいものでした…。猫好きな人は読めないかもしれません。

 

現場に乗り込み、猫を救出する獅子神と天原。この時に、天原の辛い過去が明らかになります。「虐待をする人間は動物が嫌いだから虐待するんじゃない、虐待が好きなのだ」という天原は、幼児虐待のことにも触れ、虐待防止は動物を守るためだけじゃなく人間を守るためにも必要であると話します。

 

そのセリフの背景には小さい子どもたちが描かれ、虐待の対象になりえる小さい子を守らなければという意味が込められているように感じました。

まとめ

今回も重い内容ではありましたが、動物を利用する人間がいれば、救う人間もいる。というラスト。

少し救いがある終わり方でホッとしました。途中の天原の「負けていられない」という言葉も、作者の意思が込められているような気がします。

 

こういう問題は終わりがなく、根本的な解決は見込めないかもしれませんが、それでもなお救いたい、少しずつでも「その瞳に映る世界が、優しいものであるように。」と願って行動する人たちがいるというラストシーンは読んでいて希望が持てます。

しっぽの声4巻裏表紙

帯の裏に書いてある言葉

 

前巻はあまりにも登場人物たちが感情的過ぎて、読んでしんどくなってしまいましたが、今回の巻はそのあたりが少しマイルドになっていて、最後まで一気に読むことができました。

 

毎回知らなかったことを知り、つらい気持ちにはなりますが、知ることができて良かったと思える漫画です。

 

また次の巻も読もうと思います。

 

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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