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今回は、漫画の感想を書きたいと思います。
「しっぽの声」は、夏緑さん原作、ちくやまきよしさん作画、杉本彩さんの協力によってビッグコミックオリジナルで連載中の動物漫画です。
しっぽの声とはどんな漫画か?
動物漫画と言っても、この漫画は可愛くてもふもふしている犬猫を愛でる漫画ではなく、動物保護の現場を描いたものです。
取り上げられるテーマは、多頭飼育崩壊、アニマルホーダー、飼育放棄、譲渡活動、動物管理センターの現状、殺処分について、生体販売の問題等、多岐に渡っています。
私が買った本には杉本彩さんの帯が付いていました。
重い言葉ですね。読むのに勇気がいりました(;´Д`)
杉本彩さんは、公益財団法人動物環境・福祉協会Evaという団体の理事長を努められていて、日々動物愛護活動に奔走されています。たくさんの保護犬猫と暮らしていることで有名ですね。
あとがきに、イベントでビッグコミックのオリジナルの中熊編集長と知り合い、いつか動物の問題を漫画にしますと約束されたと書いてありました。
「しっぽを持つすべての動物たちの声なき声とその尊き魂を伝えたい」 という思いからこの企画に取り組まれているそうです。
「しっぽの声」というタイトルはそこから来ているんですね。
原作の原緑さんと、作画のちくやまきよしさんは小栗旬主演でドラマ化された「獣医ドリトル」という作品も手がけています。
漫画の内容
漫画の内容は理想を持った獣医と、実際に保護活動をしている人がぶつかり合いながら、犬猫たちを助けていくというストーリー。
ドキュメンタリータッチではありますが、主人公がいて漫画としてお話しが展開していくものになっています。表紙を見た時は実録漫画的なものかと思っていましたが、そうではありませんでした。
タッチも劇画調ではなく、どちらかというとあっさりした絵柄でした。
あらすじ
主人公は、獅子神太一 レーベン動物病院副院長
アメリカ帰りのエリート獣医で、理想に燃え良いスーツを着た大学卒のお坊ちゃま。
彼の目を通して保護活動の現場を見ていくことになります。
引用元:ビッグコミックオリジナル「しっぽの声」1巻
対して、もうひとりの主人公は、天原士狼。
引用元:ビッグコミックオリジナル「しっぽの声」1巻
謎の人物として登場した彼は、動物保護を騙る詐欺師として紹介されますが、のちに立派な保護施設を運営する所長であることがわかります。保護団体の間では悪い噂しか聞かない問題を起こす人物として描かれています。
獅子神は、この天原と出会ったことにより、自分が法律を守り、理論を学んできた理想とする動物保護の問題がいかに根深く難しいものかを知って行きます。
単行本の一話目はアニマルホーダー(多頭崩壊)、個人ブリーダーによる無責任な過剰繁殖の現場を見ることになりますが、このシーンが一番辛かったです。
多数の犬たちが飢えて、共食い等で酷い状態になっている場面が、見開きで描かれていて、胸が締め付けられるような思いでした。
ただ、絵柄がリアルではありながら、過剰にグロかったり残酷だったりということがなく、読み進めることが出来ました。
動物を守ることの理想と現実
獅子神は理想、天原は現実、という立場で二人が衝突することによって現場の矛盾や人間の闇、綺麗事では済まされないということが表現されていきます。
例えば一話のアニマルホーダーの現場、獅子神を連れてきた動物保護団体の人は、飼い主が招き入れてくれなければ不法侵入になると言って、踏み込むことを躊躇します。
獅子神もそれを受け入れ、目の前に一刻を争う犬たちがいるとわかっていながら立ち去ろうとします。
そこに現れた天原はあっさりと門を突破し、不法侵入を咎められてもものともせず、犬たちを救出するために他人の家に入り込みます。
そこで、目にするひどい光景。警察がやってきて、天原は不法侵入及び、所得物(ペットの犬)を連れて行く強盗として罪に問われます。
が、同時にアニマルホーダーの現場を見た警察に、飼い主も動物愛護管理法違反で連行されます。
この話で、「どちらが正しいか」という結論は出ていません。
漫画だから天原みたいな人が存在出来ますが、実際にこういう事をする人がいたら、どうなるのでしょうか。犬を救助するために勝手に家に入りこむことは許されない行為ですが、では虐待されている犬を救うためにはどうすれば良いのでしょう…。
引用元:ビッグコミックオリジナル「しっぽの声」1巻
実際に起こった事件などがもとになっていると思いますが、読んでいて心が重くなる内容でした。そこを漫画的表現でギャグを入れたり、明るく表現することで読みやすくなっています。
殺処分の現場
物語はその後、シェルターや保健所に話が移っていきます。
犬を保護した後の医療現場、羅患した犬たちをどうするか、どんどん増える保護犬達を処分しなければいけない苦悩などが事細かに描かれます。
スイッチを押さなければいけない職員の辛さや、救えなかった獣医の悲しみが読んでいてとても苦しかったです。
動物を虐待するのも人間ですが、救うのも人間、救うと言っても一言では言い表せない時間と労力が必要で、それを続ける人間にも限界がありますね…。
この漫画で初めて知った言葉もありました。
「シェルターメディシン」といって、保護された動物たちに特化した獣医学で、家庭で可愛がられている動物とは違った見方からの医療方針の研究だそうです。
ストレスを減らして、生活の質を向上させ、治療や教育をして新しい飼い主との生活がスムーズに行くようにしていくのです。
飼い主が捨てた
↓
保護された
↓
新しいお家が決まったので幸せになりました。
という単純な図式ではない
というのが改めてわかります。
一番重く響いた言葉
この漫画は犬だけじゃなくて猫にも言及しています。実際に殺処分されている数は犬よりも猫のほうがずっと多く、また子猫が圧倒的に多いんですよね。
文明社会の猫は野生の発情期を失って、一年中交尾をします。
そのため、年に3〜4回も出産し、子猫は産まれ続けています。
TNR活動(Trap(捕獲) Neuter(不妊手術)Return(放す)の略)によって地域猫として生かされる道がありますが、結局それで数を減らすことが出来ず、処分されている現状。猫の避妊・去勢手術の問題はまだまだ難しい状態です。
そんな場面での主人公二人のセリフ。
天草「責任持てねえなら動物にかかわるな。殺される命を増やすほうがかわいそうだってんだ。1頭の猫への無責任なあわれみは…時限爆弾になって何十頭もの子猫の命を消し飛ばしちまう」
獅子神「そうか、つまり…本当に命のスイッチを押していたのは…!!」
天草「地獄への道は無責任な善意で舗装されている」
かわいそう、可愛いだけでは解決しないどころか、逆にかわいそうな動物を増やすことにもつながっているという話でした。このシーンは大ゴマで作者が言いたいことを表しているんだろうな思われる描かれ方をしていて、問題を提起する難しさを感じました。
これは本当に重い問題です。この漫画で描かれている問題は単純ではなく、「動物を助ける人かわいがる人は良い人」という単純な一言では言い表せない現状を表現していました。
普段保護活動の一部をちら見している立場から見ると、あまりにも重く、心に刺さる言葉でした。きっと保護犬カフェを運営している人たちも同じように思う事があるんでしょうね…。
*保護犬カフェとは、うちの犬がいた保護団体さんが運営してるカフェ形式のお店です。
最後はペットショップに行く家族とショップの店員が描かれていました。今後もっと深く切り込んでいくのだと思います。
感想まとめ
表紙と帯から、重い内容だと読むのが恐かったのですが、読みやすくてあっさりとした絵柄だったので最後まであっという間に読んでしまいました。
声高に無責任な飼い主やブリーダーに対してプロパガンダする内容ではなく、淡々と描いていて、続きが気になるようなストーリーでした。
初めて知ったり、知ったつもりでも深く知らなかった事もあり、勉強にもなりましたし、今後どんな内容を描いていくのかとても興味があるので、続巻を待つことにします。
この漫画を読んで、てんすけはどういう現場にいたのかなぁ、もしも保護されてなかったらどうなってたのかな…となんとなく考えましたが、悲しくなるのでやめました。
保護犬じゃなくてもペットショップに売られている子犬たちもみんな同じ。もともとてんすけもペットショップからの飼育放棄と聞いていますので、目の炎症がなかったら店頭に並んでいたかもしれません。そうなっていたら私たちは会えなかったわけです。
売られている子達と保護犬の子たちは何の変わりもない同じ命。途中で道が変わってしまっただけで、その道を決めているのは人間なんですよね。
動物保護にはいろんな意見がありますから公平な表現は難しいと思いますが、単純に漫画としてもスピード感があって面白いと思いました。
動物保護に興味がある人だけでなく、広い範囲の人達にも読んでもらいたい漫画でした。(´∀`)気になった方は是非読んでみてくださいね。
現在3巻まで出ています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2巻の感想はこちらです。
3巻の感想はこちら
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